「VISION 2020」を前倒しで達成
2022年現在、いまだ新型コロナの脅威は衰えず、ロシアのウクライナ侵攻も見通しが立たず、世界情勢は混迷をきわめています。日本で鋳造業を営んでいる当社も、そうした状況のもと、かつてない程の大きな課題に直面しています。
私が代表取締役となった2015年の時点で、事業をとりまく環境は厳しいものがありました。そのため、外的要因に負けない企業基盤作りをめざして、中期経営計画「VISION 2020」を策定しました。
2029年に創業100周年を迎える当社が“100年企業に向け、既存ビジネスの更なる改革を行うと共に、あらゆる外的危機に備え、新たなビジネスモデルを構築する”という構想のファーストフェーズになります。「VISION 2020」の主な取り組みと成果は次のとおりです。
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1「圧倒的な高品質」のための仕組みづくり
確かな品質保証体制のために、国際的な品質規格IATF 16949:2016を認証取得しました。
IATFの特徴でもある設計・初期流動において根拠ある公差設定を行うため、材質分析やX線CT装置での鋳物内部の透過などを行うことで、安定した量産体制を整えています。
さらに製品1つ1つにQRコードを印字し、高品質とトレーサビリティ機能を有する仕組みを構築しました。
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2切削加工の内製化と高精度化
鋳造の後工程にあたる切削加工を内製化し、今では切削加工装置を30台以上有する体制を築きました。
TOYOTAの燃料自動車『MIRAI』向けの部品では、薄肉2.5mmの円筒鋳物部品におけるネジ位置度0.1以下の規格に対し、0.03~0.04を実現しつつ量産を可能にしました。
また量産後の工程能力を確認するため、3次元測定器にロボットを連動させ、深夜に無人で1日当たり40台の寸法計測を行っています。
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3金型と治具の社内製作体制を構築
製品の品質やコストを決める重要な要素となる金型と治具の自社設計を内製化し、一部の金型、治具の社内製作を可能にしました。なお金型管理には、3Dスキャナで計測した情報をモデルと比較検証する仕組みも構築しました。
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4ダクタイル鋳鉄の量産も開始
顧客ニーズに十分に応えるべく、新たにHプロセスによるダクタイル鋳鉄の量産を2022年に新設した榛東工場(群馬県)にて開始します。同工場は協力企業で、Hプロセス鋳造メーカーである㈱会津工場(福島県)のBCP機能も担っており、次世代自動車向け製品の量産を行います。
また、今後アルミ、鉄を問わずワンストップで受注できるよう、2019年に㈱会津工場と鋳物総合商社「㈱ナイガイキャスティングス」を設立しました。
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5生産ラインのロボット化
今後も続くと予想される国内の労働人口の減少を見すえて、少数精鋭を基本スタイルとした生産体制をめざし、生産ラインの自動化を推進。2022年現在で20台以上のロボットをフル稼働させ効率的な生産を実現しています。
以上のような取り組みを従業員一体となって行ってきた結果、ほぼ前倒しで「VISION 2020」を達成することができました。すでに新たに「VISION 2025」を策定し、テーマである「大きく変わりゆく世界環境に順応したビジネス基盤づくり」に取り組んでいます。
サステナビリティ経営で成長をめざす
当社はこの先も社会や環境に対して貢献し続けるために、中期経営計画「VISION」においてSDGsを取り込み、2029年の東京鋳造所の創業100周年をめどとした「VISION 2020/2025/2030」の3段階でSDGsのゴールをめざします。現在取り組んでいる分野は【経済成長と雇用】【技術革新】【教育】【福祉】になります。
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【経済成長と雇用】【技術革新】
鋳造企業の枠を超えた事業活動を展開する上で、技術革新や新しい仕組み、製品の開発に取り組みます。さらに少数精鋭ながらも安定した雇用も促進していきます。
製品開発については、発泡スチロール製の高耐久性コンテナ『HACOAS(ハコアス)』を2023年に量産、販売する予定です。木村鋳造所と共同開発した環境負荷の低い画期的なオリジナル製品で、農作物の搬送を中心に鮮度維持やコールドチェーンの確立、高品質野菜のトレーサビリティをめざします。
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【教育】
2021年から群馬県立高崎高校で進路選択時の社会人講師を務めています。講演を通して、社会が求める雇用の実態や、移り行く世界情勢、経営者に求められる資質などを生徒に伝え、100年人生といわれるこれからの人生において、大学受験は1つの通過点に過ぎない事を理解してもらいたいと思っています。
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【福祉】
前橋特別支援学校、渋川特別支援学校の卒業生を正社員として採用しており、製造現場で働いてもらっています。すでに5年以上が経過し、彼らの仕事ぶりは素晴らしく、事業の成長に不可欠な存在となっています。
また、2021 年に設立した農業法人㈱PEEKABOO(ピーカブー)では、自動化された「かぶ」の洗浄作業に障害者を雇用し、農福連携のモデルケースを創りあげました。
以上のように、鋳造業という枠を超えて社会貢献する事で、社会に必要とされる企業として末永く事業を存続させていきたいと考えています。
冒頭で述べたように、世界情勢や事業環境の先行きは視界不良で課題は数多くありますが、日本の鋳造企業としての誇りをもって、群馬県から日本の鋳物の素晴らしさを世界に示すと同時に従業員やお取引先から「自分の子供たちも入社させたい」と言っていただける企業にしていきたいと強く思っています。